第72章 どうかしてるのか

黒谷優は目を昏く沈め、床に倒れた人間をねめつけた。

外にいた医療スタッフたちは、その光景に呆然と立ち尽くす。だが次の瞬間、沸騰した湯がはねるみたいに一斉に動き出し、慌ただしく後処理に入った。

南坂海乃は黒谷優に支えられながら、視界が白い靄に覆われていくのを感じていた。

――誰……?

二つの命を駒にしてまで、彼女が「当時の真相」に近づくのを止めるなんて。

黒谷優が彼女の目を手で覆う。耳元に落ちてきた声は、低く、磁性を帯びている。

「見るな、海乃」

言葉は優しい。けれど、その瞳の奥は花が咲いた濃霧みたいに深く、底が見えなかった。

――誰だ。

この男の目の届く場所で、妻を罠にかけ...

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